#089 厳格主義と温情主義
ローマには、2人の名将がいた。
マンリウスとワレリウスである。
2人は人物も戦績も同じように優れていたが、統率方法は全然違っていたのである。
マンリウスは厳格で、厳しい統率をしており、「マンリウス式統率」と言われていたほど。
ワレリウスは温情であった。
しかし
輝かしい戦勝を上げ、祖国防衛の栄光を一身に集めた点では2人とも同じであり、彼らの部下はともによく命令を守り、勇敢であった。
マンリウスの厳格主義が成功したのは、彼の時代が革新期だったことである。
ワレリウスの時代には軍隊の訓練がすでに出来上がっており、現状を維持するだけで良く、部下を処罰する必要はなく、感謝と信頼を一身に集めて、温情主義による統率にできた。
しかしこのことには例外がある
両者の条件は同じであったが、イタリアに侵入したハンニバルは厳格主義で、イスパニアに侵入したスキピオは温情主義で、それぞれ成功している。
彼らのように抜群の力量を有する者の場合には、
「愛されすぎたり、憎まれすぎたりしたために生ずる欠点」
などは、圧倒されてしまうのである。
一般に命令を下す場合に配慮しなければならないのは、発令者自身の実力と受令者の能力の釣り合いを考えることで、その差があまり大きい時の命令は強く響きすぎる。
厳罰主義を実行するための命令は、強い性格を持った人間が発令し、強硬な手段によって服従を徹底させなければならない。
性格の強くない人間はこの方法を取るべきではない。
共和国を力によって維持しようとする場合、力を行使する側と支配を受ける側との間にはある種の均衡が存在しなければならない。
均衡がなければ力による支配は永続しないのである。
マンリウス式は共和国の支配者に適している。
ワレリウス式は君主に適している。